個人事業主が生計を一にする親族に支払う対価

個人事業主が生計を一にする親族に支払う対価については、その個人事業主の所得を計算するうえで、原則として経費となりません。

個人で事業を行う場合、基本的にその事業で得た利益には所得税がかかるため、1年に1回の確定申告等で、国にその事業の内容を申告して、その事業の利益にかかる所得税を国に納める必要があります。

その事業の利益の基本的な計算方法は、その事業で得た収入から、その事業についての経費を差し引くということになります。その経費に含めることができるものは、事業に必要なものとされます。おおむねその経費は、事業に必要だろうという直観的な判断で正しいことが多いのですが、そのような直観では正しくないことがあり、注意が必要です。今回ご紹介するものも、そのような誤りやすい一例といえます。

ここで、生計を一にすることの説明となりますが、親族が同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものとされます(所得税基本通達 2-47)。

個人が事業を行う場合、同居していて生計を一にする親の家の一部を借りて、そこで事業を行うという場合があると思います。このとき、その個人事業主は、親に家を借りていることの家賃を支払うこともあると思います。

この場合に注意しておきたいことが、その個人事業主が親に支払う地代家賃は、個人事業主が所得税を計算するうえで経費とならないということです。
より一般化していうと、生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などの支払対価は、個人事業主の事業所得等の計算上、原則として必要経費にならないということになります。
これは、親族間での恣意的な行為により、親族全体の税額を不当に軽減することを防ぐために定めているものと考えられます。
例えば、所得税の税率は累進課税で金額が大きくなるほど税率が高くなるため、個人事業主一人で2千万円の所得でそれに対して所得税を払うよりも、個人事業主と親で1千万円ずつの所得とした方が親族全体の税金は少なくなります。しかし、地代家賃を使ってこのような所得分散をしようとしても、国が制度を定めてできないようにしています。

ただし、親が個人事業主よりもらった地代家賃は、親の所得税を計算するうえで、収入とはなりません。これは、その地代家賃が、個人事業主の所得税を計算するうえで経費とならないことの、裏返しの意味があります。
そして、親がその家について支払う固定資産税等で、その個人事業主に貸しているものに対応する部分は、個人事業主の所得税を計算するうえで経費とすることができます。これについても、裏返しの意味があります。親の地代家賃収入がなかったことになるので、それに対応する経費もなかったことになります。しかし、その経費のうちの個人事業主が負担すべき部分については、個人事業主の事業所得の計算上、経費の性質からみて本来含めるべきものです。そのため、親の経費ではなく、個人事業主の経費として所得税を計算することが認められています。
親と個人事業主の地代家賃のやり取りがなかったようにして、所得税の計算をしていると考えることができると思います。